drupa2000と世界の印刷事情


国際印刷大学校学長 
     木 下 堯 博

1、はじめに

 1997年7月にタイで始まったアジアの通貨危機から約3年を経過し、世界経済はやや回復のきざしをみせていよう。アメリカの景気は拡大傾向にあり、戦後最長を記録している。これはIT技術革新によりあらゆる分野の産業の生産性も高まる傾向にあると言えよう。
 一方、ヨーロッパでは1999年EU加盟国のうち11ヶ国が単一通貨のEuroが誕生しマルクやフランは消滅する。実質的通貨は2002年頃から利用開始される。
 現在では領収書にマルクとEuroの値段が併記されていて、準備が着々と進んでいる。このEU経済圏は人口2.9億人、GDP約8.0兆ドル(1997年)となり、アメリカ(2.7億人、約7.8兆ドル)、日本(約1.26億人、約4.1兆ドル)の三大経済圏が誕生した。(1)
 ところで、世界の印刷物出荷額は1996年で31兆2000億円となり、1987年の25兆7900億円から5兆4100億円(21%)増大した。しかし、アメリカ、ヨーロッパがそれぞれ3%減少し、アジアが4%増大している。うち、日本は2%増大しているがバブル崩壊前のデータであるので若干変動があろう。特にアジア地域では印刷物需要が高い。(2)(図1)
 円となり、そのマーケット比はドイツ34%、アメリカ19%、日本7%となり、ドイツが高い比率を維持している。(3)(図2)
 このような経済状況の中でdrupa2000が5月18日から31日まで開催され、引続いて6月1日からドイツ万博がハノバーで開催されている。
 又、drupa2000の協賛行事としてマインツ市でGutenberg600(1400〜2000)が2000年12月まで開催される。Drupaの期間中にフランクフルトでACHEMA展(化学産業)も行われ、更にドイツにおける日本年など各地で多彩な催しがあつた。
 著者は5月16日から6月1日までドイツを中心として、これらの行事に参加し、1995年のDrupa95からの課題(世界の印刷文化遺産)を1997年のプリント97(シカゴ)での中間報告を経て今回、ライプチッヒの印刷博物館などで報告した。問題点は次回の2004年5月のdrupa04へ継続テーマとした。これらの概要について報告する。


2、 グーテンベルグ生誕600年

 グーテンベルグの誕生が1400年頃であるため、グーテンベルグの生地マインツ市ではグーテンベルグ(1400〜2000)600年祭の行事が市内13ヶ所(マインツ大学、グーテンベルグ博物館、自然歴史博物館、ドーム教会博物館、グーテンベルグパピリオンなど)で開催されていた。ここではグーテンベルグに関する特別展示や体験学習を行っていて、学童から老人層までこのお祭りに参加し楽しむことが出来る。
 特に、グーテンベルグ博物館はグーテンベルグの展示を中心とした特別展となり、長期にわたり改修して新しく4階に小劇場を設け、グーテンベルグの誕生から印刷の発明に至る経過をコミカルなマリオネットで演出し、見学をしていた小学生は笑いころげていた。
 また、グーテンベルグパピリオンでは、コンピータ利用とインキの色合せなどを行っていて印刷に関する基礎的学習を小学生の課外授業の一環として対応していた。
 グーテンベルグの研究はマインツ大学のフーセル教授やグーテンベルグ博物館の
ベンツ館長らにより行なわれていて、1997年、韓国で開催のユネスコ主催の国際シンポジウム“International Symposium on the printing History in East & West”では、両氏が参加し、将来へむけてのドキュメント遺産の保存を、ユネスコを通じて広く各国に依頼した。(4)
日本の印刷文化遺産に関しては、著者らがデータベース化作業などを行い
   [1]世界遺産とドキュメント
   [2]印刷文化遺産
   [3]データベース化
などを柱として、研究調査報告書をまとめた。(5)(図3)
 −方、中国と韓国の印刷術の発明は、グーテンベルグの発明より約200年前、ピーゼン(中国)により陶製活字が作られた。この活字製作と印刷術はモンゴール軍の征西によりヨーロッパに伝播したのではないかと考えられよう。韓国清州市で印刷出版Expo2000が開催されるがそれを記念して第3回清州国際印刷出版文化シンポジウムが10月12日からオープンする。
 著者は“The Developement Modern Japanese Printing Technology”を発表の予定である。(6)
このようにしてグーテンベルグ生誕600年祭は世界各地で印刷出版文化の研究活動がくりひろげられている。
 ドイツでの印刷博物館は過去の資料を今日のデジタル対応と結びつけ一般大衆にも理解されるような展示と解説を中心に社会教育の一環として展開されていた。


3、印刷産業

 ヨーロッパ各国の1998年の印刷出荷額は高い順にグループ別にすると第一グループはドイツを筆頭にフランス、イギリス、イタリアの順で一人あたりの出荷額は平均410DMとなった。
 第二グループはスペインからベルギーまでの5ヶ国が含まれ、一人あたり平均559DM、第三グループはデンマークからフインランドの4ヶ国で一人あたり603DMとなった。
 第四グループは東欧3ヶ国(ポーランド、チェコ、ハンガリー)で一人あたり62DMと低かった。(図4)
 これらのことから印刷出荷額の低い第三グループが一人あたりの出荷額が高くなった。ヨーロッパ各国の1998年の一人あたりの印刷出荷額は平均で358DMとなり、スイスの957DMを筆頭にポーランドの29DMまで格差は大きいが今回、ポーランドでみたグラビアの印刷物の品質は大変すばらしいもので印刷技術レベルの格差はあまり無いものと考えている。
 ドイツ経済のGNPは3兆7194億DM(1998)と年々増大しているものの、その成長率(%)は徐々に減少してきていて、失業率が高くなっている。(図5)
 貿易収支はGNPに比例して拡大傾向を示し、貿易収支とGNPとの相関係数は0.92とかなり高くなった。
 ドイツ経済は主として自動車産業が牽引役を引きうけている。自動車分野の特許出願率でも米国を追い抜いている。(図6)
 印刷関連の特許出願率件数もアメリカより多く、輸出に大いに貢献しているといえよう。 印刷機械輸出に対しては、指導する教育機関がフランクフルトにはPrint Promotion、アンデアーリスのハミューラスタジオの他、今年4月に開校したハイデルベルク社のプリント・メディア・アカデミーの企業内教育機関がある。シュットガルト大学のメディア学部は、MAN-Rolandと産学協同体制を確立し、アメリカのRITはデジタル印刷の調査を開始した。
 drupa展ではFograなど研究機関の展示の他にTAGA−VDDの合同研究発表会があった。イギリスでは国立のWest Herts Collegeの出展があり印刷及び同関連産業の人材育成や技術開発の一翼を担っている。
 印刷産業の将来に関して、Printing紙の予測があるがクロスメディアの伸び率が高く従来のプリプレス、フォーム印刷は減少するとまとめている。(図7)
2000年7月3日の釜慶大学校画像情報工学部(博士課程)の報告では多くの質問が出されインターネットの利用、カラーマネイジメントのソフト開発、PDPの研究レベルなど次世代へ向けてのチャレンジがあった。


4、drupa2000

 今回のdrupa2000はデジタルメデイアを中心として印刷及び関連分野の品質が向上し、機械の速度が速くなり、価額が比較的安価になつたことに特徴があろう。
従って、QSC(Quality, Speed, Cost)と名付けてみた。
 これらをサポートするシステムはデジタル化が拡大し、一層、機能化が進み通信からデザイン、プリプレス、プレス、デリバリーへと連動し、Work Flowが整備されたと言えよう。将来的課題としての技術的興味はプレートレス(版なし)、インキジェツト印刷の品質改良と高速化(デジタル印刷)、ドット-コム(通信)などが考えられる。drupa2000での展示面積別ではHeidelberg、MAN-Roland, Xeroxの順となり、特に6号館(Print City)ではMAN-RolandとAgfaが中心となり60社以上の企業が相互に協力しあいデザイン、プリプレス、プレス、製本加工、出版などの一連のネツト構築を行い、各社が実演するショウがみられた。ここでは毎日、16ページのドイツ語の新聞を発行していてMAN-Roland, Agfa, Adobe, Schur Packaging System各社が中心となって製作していた。このような連合はデジタル社会であればこそ成立する。ヨーロッパではEC(欧州連合)のように15ヶ国が一体となり経済運営をし11ヶ国が通貨EUROを発行する。この連合や合併は相互に長所を取り入れ1+1=2ではなく、倍の=4以上になるメリットもある。従来の工業社会では主として線形成長であった。しかし今日の情報社会では対数尺での成長も見込まれよう。
 更に、もう一つの特徴として電子印刷系のXeroxの印刷界への参入であり、ネットワーク、データベースを活用した印刷出版がみられ、ペーストインキの利用による印刷はAdast社のPAX-DIを展示しトナー系と合わせて18ホールで展開された。
これにたいしてHeidelberg社はKodak社と提携し電子印刷系のNexPress2100を特設 の会場でデモンストレーションを行った。従来の印刷機械メーカーがこのような電子 印刷機を投入した事例は三菱重工の電子印刷機MD300がある。この件に関しては
7月28日の日本印刷学会中部支部の講演会でオンデマンド印刷のテーマとして名城大学で発表がある。デジタル印刷の市場が世界的に拡大していることを目指したものであり、Indigo,Xeikon,Canon,Xerox,Tr-System各社が躍進していることでも証明されよう。(図8)ちなみに(1)American Speedy Printing Centers,(2)KinKo's Internationalの売上が急増し、単なるコピー屋からSOHO、アウトソ−シング関連の仕事が多いとの報告もある。
 一方、印刷機械メーカーではDI(Direct Imaging)装置を搭載してきた。主としてPressTek社と Creo-Scitex社(Square Dot方式)を使用している。しかし、機上描画製版は、 印刷する時間を製版に費やすため印刷生産性が問題となろう。又、機械の値段もこの搭載により上昇していくであろう。そのため将来的にはスイチャブル方式(光又は熱応答)のシリンダーとして対応して行くことが必要であろう。
 CTPは最近、Thermal方式からViolet方式へ更にUV方式へと変遷しようとしているが大幅にThermal Plate の改良が進みプレヒート不要のネガタイプ、現像レス方式などが期待される。Violet Laser対応セツターはEsher-Grad社のCobalt 8の他5社から出展していて、利用されていたプレートはAgfa, KPG, 三菱化学各社であつた。
 UV方式は従来のPS版が利用出来ることで期待されていたがbaysPrint社UV-
SetterとPurup-Eskofot社のDICONの2社で1350*1700mmの大サイズはこれからというところである。
 デザインからプリプレス、プレス、製本加工、デリバリーにいたる一連のワークフローはPDFを中心としたPJTF(Portable Job Ticket Format)とCIP−3 PPF(Print Production Format)とが一体となってJDF(Job Difinition Format)として新しく登場するであろう。これらは通信、インターネットにより対応可能となるであろう。これらの分野ではVio,Wam-Net, myfujifilm.comなど11社以上のネットソフトが出展されe-commerceによるビジネスの展開が始まろうとしている。


4, Printing World Wid

 デジタル化の進展により世界は一層身近になり会場内のPress Roomではインターネットが自由に利用出来、毎日の情報が得られた。各社では印刷物よりもCD-ROMによる宣伝が展開された。かくしてデジタル化は世界各国の印刷技術のレベルを高め、IT革命とともに周辺領域も向上している。
 発展途上国のレベルもこのデジタル化により一層の発展が期待されよう。
2001年のPrint01、北京の第7回印刷人会議など人類に優しい印刷技術を
目指しての研究開発が望まれる。
 次回のdrupa04の2004年5月6日〜19日まで多くの課題が残されている。

[参考文献]
(1) 世界国勢図会1999・2000国勢社(1999年9月)
(2) H.Willkom; Deutscher Drucker36[6]14〜17(2000)
(3) Printing,May18(2000) 
(4)International Symposium on Printing History in East West(29〜30,Sept.1997)in Seoul
(5)木下堯博;世界の印刷文化遺産のデータベース化に関する調査研究、電気通信普及財団研究調査報告書(2000)
(6)Symposium: The Future of the World's Printing and Publishing Culture (11〜13,Oct.2000)
(7)各社の資料を利用しました。

この論文は2000年7月3日釜慶大学校画像情報工学部、7月27日、28日日本印刷学会西部支部、中部支部で発表。図は省略しました。